腹腔鏡手術

腹腔鏡手術は小さな傷で筋腫や子宮を取ることができます

腹腔鏡とは ? →

開腹手術との違い →

子宮鏡との違い →

術後の痛みは ? →

大きな筋腫も可能 ?

出産は帝王切開 ? →

筋腫の再発が多い ? →

リュープリンは必須 ? →


腹腔鏡とは

子宮筋腫の腹腔鏡手術風景

切らない筋腫治療センターは内視鏡手術専門で開腹手術はしていません。
内視鏡とは、なるべく傷つけずに体の中を観察する医療器具です。
胃腸や耳・鼻のほか膀胱や子宮用に専用の内視鏡が開発され、機器の発達と技術の向上により、観察だけではなく治療も可能になっています。
腹腔鏡は、腹腔(おなかの中)用の内視鏡として発達し、現在では縫合も可能になり、開腹手術とほぼ同等のことができます。
おなかの小さな傷からビデオカメラ(腹腔鏡)を入れ、外部のモニター画像を見ながら、専用の器具で手術します。
上の写真は、モニターに大きな子宮筋腫と両手で操作している鉗子の先端が映っています。

開腹手術との違い

腹腔鏡手術では「臓器を切ったり,縫ったり」するという点で開腹手術と同じことをします。
違いは,おなかの傷の大きさです。開腹手術は腹部を10~20cm程度切りますが,腹腔鏡手術は0.5から1.5cm程度3~4か所の傷です.
傷が小さいので「痛みが軽く傷がめだたない。回復が早く退院と社会復帰が早い。術後の腹腔内癒着が少ない」など、開腹手術より優れています。
ただし,臓器に直接手で触れて,切ったり縫ったりできる開腹手術に比べ,モニター画面をたよりに体の外から細長い器具で切ったり縫ったりしなければならない腹腔鏡手術は、高度で特殊な技術が必要になります。

腹腔鏡手術器具写真腹腔鏡手術器具写真

体外でハンドルを握ると腹腔内で掴むことができます

子宮鏡との違い

腹腔鏡は「腹壁→腹腔→子宮の外」から、子宮鏡は「腟→子宮口→子宮の中」から、とアプローチが異なる内視鏡です。腹腔鏡は、筋腫だけ取ることも子宮ごと取ることも可能ですが、子宮鏡は「子宮の中での手術」なので子宮そのものを取ることはできません。
漿膜下筋腫では筋層内筋腫よりも筋層切開は少なくて済みますが,粘膜下筋腫では筋腫が子宮腔内にあるため帝王切開のように子宮の中までの深い筋層切開が必要になります。このため,粘膜下筋腫に対しては筋層を切らない 子宮鏡手術 が優れているといえます。


術後の痛みは ?

子宮筋腫腹腔鏡手術後のきれいな傷跡の写真

①腹腔鏡のカメラを入れるため,へそを縦に1.5cm切っています。②③は手術器具を入れるため,約5mm切っています。3週後には傷跡は、ほとんど目立ちません。 筋腫を子宮と一緒に取る子宮全摘術では子宮と筋腫を小さく切り分けて腟から出しますが、子宮を残す筋腫摘出術では①から筋腫を細く切って出しています。 開腹手術より傷がずっと小さいので、術後の痛みは軽いですが手術当日はおなかの痛みはあるので痛み止めはします。子宮全摘術では筋腫と子宮は腟から取り出しますが、子宮を残す筋腫摘出術では、カメラを抜いて①の傷から筋腫を掴み、メスで細く切り引きずり出すように取り出しています。(詳細写真は→)
筋腫を小さくする方法と、取り出す経路には、いくつかの方法があり、医師・病院により異なります。1.5cmの傷から「電動モルセレーター」という電動の回転する刃物を 挿入し、腹腔内で筋腫を細く切って取り出す方法が一般的ですが、刃物の回転により細かな筋腫のかけらが腹腔内に飛散すると言う問題があります。

切らない筋腫治療センターでは、電動モルセレーターは使いません。(詳細はここをクリック)

電動モルセレーターを使用し、飛散した筋腫のかけらが腸や腹膜の表面で発育するケースが報告されたことと、アメリカで筋腫と思われていたが、術後に悪性腫瘍と判明したケースがあり、悪性細胞を腹腔内に撒き散らす可能性があるため使用が控えられています。
私自身は、モルセレーターを使わず、メスで筋腫を細長く切って出しています。テクニックが必要ですが、安全性が高いと考え、内視鏡外科学会、産婦人科手術学会、産婦人科内視鏡学会などで発表し、この方法を推奨しています。(詳細写真→)

出産は帝王切開 ?

子宮筋腫摘出手術では子宮筋層を切開しますが、切開した筋層が縫合されても子宮筋層には「瘢痕」という傷跡が残ります。
帝王切開では子宮筋層を切って赤ちゃんを取り出しますが、帝王切開後の次の妊娠の時は、予定帝王切開が勧められます。これは、子宮筋層の瘢痕部分が出産時の陣痛の圧力により裂けることがあるからです。腹腔鏡での筋腫摘出は開腹手術と変わらず子宮筋層を切開しますから、帝王切開後の妊娠出産と同様にやはり帝王切開が勧められます。

9cmの筋層内筋腫のMRIです。このような筋腫は、開腹または腹腔鏡では子宮を半分に割るように大きく切るので帝王切開になります。他の病院では開腹手術を勧められていましたが、腹腔鏡で摘出しました。難易度は高いですが子宮鏡での摘出も可能な筋腫です。子宮鏡なら自然分娩も可能です。

大きな筋腫も可能 ?

可能かどうかは、筋腫の大きさと数や位置に加え、医師の技術で変ります。
開腹手術なら大きい筋腫も大きくおなかを切れば簡単ですが、腹腔鏡では小さな傷から出すので大変です。筋腫の大きさが15cmくらいになると物理的に困難ですが、大きい筋腫でも生理を止める偽閉経療法で小さくなれば可能になります。(リュープリン →)
下のMRIは、下腹部を体の中心で縦割りにしたイメージです。巨大筋腫が偽閉経療法で小さくなり腹腔鏡で摘出できたケースです。17cmの巨大筋腫はおへそを超え、後に子宮が見えます。小さくなったとはいうものの摘出した筋腫は1022gありました。

腹腔鏡手術で摘出できた17cmの巨大子宮筋腫のMRI画像


巨大筋腫腹腔鏡手術の解説写真 詳細はここをクリック

へそから入れたカメラで筋腫を観察。巨大すぎて画面に収まりません。

筋腫の根元を鉗子で挟もうとしています。

鉗子(左)で筋腫を掴み、超音波凝固切開装置(右)で根元を挟みます。

超音波凝固切開装置のスイッチを入れ、熱で焼き切ります。

筋腫が完全に切り離されました。

切り離したところを電気で焼いて止血し、縫合します。

縫合が終わったところです。子宮の下方左右の白いものが卵巣です。

おへそのカメラを抜き、筋腫をメスで細く切り出していきます。

筋腫は1022gの重さでした。開腹手術なら15cmくらいの傷になるところが、1.5cmですみました。

 

腹腔鏡手術の可能性について、MRI画像データがあればメールでお答えします。 相談は無料です。以下のフォームよりお問い合わせください。







腹腔鏡は再発が多い ? ( 詳しく )

子宮筋腫は子宮全摘をしない限りどの方法で手術しても再発します。
ただし、再手術が必要な筋腫が再発することが多いわけではありません。
子宮全摘術ではすべての筋腫を完全摘出したことになりますが,子宮筋腫の発生が単発(1個だけ)であることは例外的で通常は複数発生し,微小な筋腫は発見できないので,筋腫摘出術では開腹、腹腔鏡、子宮鏡のどの方法で行っても、基本的に残存筋腫が存在します。
手術に先立ちMRIで筋腫の大きさ・位置・性状を観察し手術計画を立てますが,必ずしも認識できたすべての筋腫の摘出を目標としているわけではありません。
取り残された筋腫は,術後も増大する可能性が高いわけですから,「できるだけ多くの筋腫を取り,できるだけ取り残さない」ことも目標の一つですが,現実には多発例では「すべての筋腫が取りきれる」ということはありえません。
たくさんの筋腫をとることは,基本的には「健常筋層・内膜・卵管の損傷・機能低下,筋層瘢痕の増加による筋層脆弱化(もろくなること),縫合範囲の増加による術中出血と術後癒着の増加」の原因になります。
筋層内筋腫の筋腫摘出術の目的の一つは「妊娠できるようにすること」ですが,この手術では筋層切開と縫合修復が必要になります。
多発例や巨大例では,妊娠可能な子宮に形成することが困難な場合もあり,「できるだけ多くの筋腫を取り,できるだけ取り残さない」という原則にこだわりすぎると,逆に妊娠の可能性を減らすこともあります。
また,多発例や巨大例では縫合を重ねても止血困難な場合もあり,「できるだけ多くの筋腫を取り,できるだけ取り残さない」という原則にこだわりすぎると,長時間手術や大量出血のリスクが高まり,低侵襲(体にやさしい)という腹腔鏡手術のメリットが損なわれる事態も生じます。
そこで,実際には,術前にそれぞれの筋腫について,「症状への影響度,摘出難易度,摘出による健常組織への侵襲」を評価・予測し摘出の優先順位をつけます。
そして、術中には出血量,手術時間等,患者への総合的な侵襲を考慮し,どこまで摘出するかを決定しています。
また,画像診断は解像度に限界があるので,術前に認識できなかった小さな筋腫が術中に見つかります。たとえば,腹腔鏡下筋腫摘出術では小さな漿膜下筋腫だけでなく,切開筋層断面に小さな筋層内筋腫がみつかることがあり、子宮鏡下筋腫摘出術では小さな粘膜下筋腫だけでなく,摘出予定筋腫の摘出部に別の筋層内筋腫が見つかることがあります。
これらのうち摘出が容易なものは摘出しますが,摘出困難なものと術前に認識できなかった小さな筋層内筋腫は必ず残ることになります。
結論として、子宮筋腫の術後再発は子宮全摘しない限り避けられず、腹腔鏡手術が再発が多いということはありません。

 

リュープリンは必須 ?

子宮筋腫が非常に大きい場合は、腹腔鏡のカメラをおなかに入れても手術する部分が見えないので、手術できません。また、筋腫が大きいと手術時間がかかり、術中の出血量が増えます。これらの問題を軽減するため手術前に「偽閉経療法」が必要です。50歳くらいで卵巣の女性ホルモン分泌が止まり閉経しますが、閉経後は子宮内膜も筋腫も萎縮します。卵巣の働きを一時的に休止させる薬(注射)がリュープリンです。筋腫の大きさなどによりますが、この注射を4週間ごとに1~4回くらい行う必要があります。人工的に閉経状態を作るので、さまざまな更年期症状が起こることがあります。初回注射後は一時的に女性ホルモンが増えますが、3週間ほどで低下してくるので副作用が起こる場合は、このころからです。一番多いのは「上半身から顔のほてり、発汗」で、9割くらいの人に起こります。そのほかに、頭痛、肩こり、不眠、イライラ、動悸などがありますが、これらは少ないです。4回くらい続けると1割くらいの人に関節痛・筋肉痛が出ます。切らない筋腫治療センターでは原則としてリュープリンを使いますが、注射のつど、副作用の有無についてお尋ねしています。ネット上では「リュープリンの副作用はつらい」と書かれているものが見られますが、このような人は実際はごくわずかです。まったく副作用がない人もいますが、症状が現れた場合は症状に応じて漢方薬を処方しています。いずれの症状も注射が終わって生理が再開すれば消失しますので、心配いりません。